Guide
AIで初めてWebサービスを作るロードマップ
問題定義から要件、試作、実装、限定公開、本番運用、監視・復旧まで、AI支援でWebサービスを作る7工程を解説。
初めてのWebサービス開発は、コードを書く前と公開した後を含めて設計します。順番は、問題定義、要件、試作品、実装、限定公開、本番運用判定、監視・復旧です。
対象は、AIコーディングを使って小さなWebサービスを初めて公開する人です。解く問題と利用者がまだ曖昧なら、先に「AIで何か作って」を課題へ変える方法を済ませてください。特定のフレームワーク(開発の土台)やホスティング(Web上で公開する環境)の設定手順、完成日数の保証は扱いません。
7工程の早見表
| 工程 | 作る成果物 | 終わったと判断する条件 | AIに任せやすいこと |
|---|---|---|---|
| 1. 問題定義 | 課題文、現状値、非対象 | 作る・作らないを比較できる | 質問案、整理 |
| 2. 要件 | フロー、データ、権限、受入条件(完成の判定基準) | テスト可能な文章になった | 抜け漏れ候補 |
| 3. 試作品 | 最小の試作品 | 最大の不確実性を検証した | 仮UI、使い捨てコード |
| 4. 実装 | テスト付きの小さな変更 | 受入条件を満たす | コード案、テスト案 |
| 5. 限定公開 | 少人数が使える版 | フィードバックと運用負荷を確認した | ログ要約、課題の整理 |
| 6. 本番運用判定 | 公開チェックリスト | 監視・保護・回復手段がある | チェックリスト照合 |
| 7. 運用・復旧 | アラート、バックアップ、運用手順書 | 障害を検知し戻せる | 調査補助、手順検索 |
1. 問題を決める
最初に、対象者、困りごと、現在の手順、現状値、今回扱わない範囲を1枚にします。GOV.UKのDiscovery(問題発見)ガイドは、サービスを作ると決める前に、問題、利用者、制約を理解するよう求めています。Discoveryの段階では、まだ構築を始めません。
小規模開発なら大きな調査期間は不要です。利用者への短い聞き取り、現在の画面や表計算、問い合わせ記録を確認し、作る価値があるかを決めます。
2. 要件をテストできる文章にする
画面一覧だけでは足りません。次を決めます。
- 誰が何をするか
- 正常経路と失敗時の経路
- 入力、処理、出力
- 保存するデータと保存しないデータ
- 閲覧、編集、管理の権限
- 完了と判定できる受入条件
- 運用責任者と問い合わせ先
そのまま使える型は小さなシステムの要件定義テンプレートにあります。
3. 試作品で最大の不確実性を試す
試作品の目的は完成品を早く作ることではありません。GOV.UKのAlpha(試作)ガイドは、失敗時の影響が大きい仮定から試す考え方を示しています。
たとえば「LLM(文章などを生成するAI)なら何とか分類できる」ではなく、次のように試します。
- 実際の入力に近く、機密を除いた例を用意する。件数はリスクと入力の分布から決める
- 誤分類すると困る例を先に含める
- 現行手順と同じ指標で比べる
- 合格、追加検証、中止の条件を決める
試作品のコードは本番品質とは限りません。認証、エラー処理、監視、アクセシビリティ(使える人を狭めない設計)、データ移行が未設計なら、そのまま公開しません。
4. 実装を小さな変更に分ける
一つの受入条件を、一つの変更単位へ近づけます。リポジトリは、コードと変更履歴をまとめて保管する場所です。AIへリポジトリ全体の書き換えを頼まず、変更対象、非対象、実行するテストを明記します。
実装中の履歴管理はAIコーディングを壊しにくくするGit入門を参照してください。AIが生成したコードも、人が差分を理解し、テスト結果を確認してから統合します。
5. 少人数で限定公開する
いきなり全利用者へ開きません。自分、関係者、招待利用者の順に広げます。確認するのは機能だけではありません。
- 問い合わせは誰へ届くか
- 失敗をログから見つけられるか
- 料金や処理時間が想定内か
- 誤操作を戻せるか
- データ削除依頼へ対応できるか
- 担当者が不在でも止められるか
フィードバックは要望一覧にせず、元の課題と成功指標に戻して優先します。
6. 本番運用へ進む条件を確認する
GOV.UKのLive(本番運用)ガイドは、成功指標、情報保護、可用性、状態監視、性能・脆弱性テストを継続できる状態を挙げています。必要な強さは規模と被害リスクで変わりますが、小規模でも担当者と確認方法は必要です。
[ ] 成功指標と安全指標を見られる
[ ] エラーと異常利用を検知できる
[ ] 秘密情報を安全に管理している
[ ] 依存関係と脆弱性を更新できる
[ ] 問い合わせ・インシデントの連絡先がある
[ ] 旧版または代替手順へ戻せる
[ ] データをバックアップし、復元を試した
7. バックアップと復元を別々に確認する
バックアップの有無だけでは復旧準備を評価できません。NIST CSF 2.0は、バックアップを保護・保守・テストし、復元前後のデータが壊れていないか確認することを、望ましい成果として挙げています。
最低限、対象、頻度、保管場所、保持期間、復元担当、復元手順、最後のテスト日を記録します。データ移行がある場合は、アプリケーションの切り戻しとデータの復旧を分けて考えます。旧版との互換期間、roll-forward(修正版を適用して先へ進む方法)、バックアップからの復元のうち、システムに合う方法を公開前に試します。
AIを使う場所と使わない場所
AIは、調査候補、コード案、テストケース、文書、ログの整理を速められます。一方、次は責任者が決めます。
- 何を解くか
- どのデータを渡せるか
- 何を合格とするか
- 誰が承認するか
- いつ停止し、どう戻すか
工程別の詳しい確認
- 課題を定める:AI案件の課題定義
- 要件を一枚にする:小さなシステムの要件定義
- 変更を管理する:AIコーディングのGit入門
- 生成コードを確認する:AI生成コードのレビュー
- LLM機能を測る:LLM機能の評価設計
- ツール実行を守る:プロンプトインジェクション対策
- 入力データを選ぶ:生成AIへ入力する前の確認
- 方式を比較する:作る・買う・やめる判断表
- 運用を引き継ぐ:社内システムの棚卸し
7工程を一度回したら、公開後の測定と改善へ戻ります。公開して終わりにしないための一周です。
