Guide
「AIで何か作って」を課題と成功指標に変える方法
曖昧なAI開発依頼を、課題、現状値、選択肢、成功指標、GO・HOLD・STOP条件を持つ小規模な検証計画へ変える実践ガイド。
「AIで何か作って」と頼まれたら、最初に決めるのはモデルや画面ではありません。誰のどんな困りごとを、現在よりどれだけ改善するのか。その確認方法と、途中で止める条件までを1枚にします。
対象は、曖昧なAI案件を任された企画・開発担当者です。現在の業務を知る人と短く確認できる時間を確保してください。製品選定、全社AI戦略、個別の法務判断は扱いません。
まず1枚に書くこと
次の欄が埋まらないうちは、実装を始めません。
対象者:
困っている場面:
現在の手順:
現在値(時間・件数・費用・誤りなど):
利用するデータ:
データ管理責任者:
入力可否を決める人:
外部サービス・送信先:
個人情報保護・法務・セキュリティの相談先:
今回の非対象:
比較する案:
限定試行の対象人数・件数:
限定試行の期間:
限定試行の業務範囲:
成功指標:
許容できない結果:
検証期限・費用上限:
GO / HOLD / STOPを決める人:
停止後に戻す手順:
データの管理責任者、入力可否、外部送信先が分からない場合も実装には進みません。確認項目は生成AIへ入力してよいデータの判断で整理できます。
GOV.UK Service Manual(2026年8月17日確認)は、決め打ちされた解決案を「解くべき問題」へ戻し、問題に含めない範囲も合意するよう案内しています。英国政府サービス向けの指針ですが、実装ありきの依頼を整理する型として使えます。
短い記入例
次は書き方を示す架空の例です。
対象者: 営業担当3人
困っている場面: 承認済み製品資料を探すのに時間がかかる
現在値: 1件あたり中央値15分
利用するデータ: 公開済みの承認資料だけ
データ管理責任者・入力可否: 製品責任者が確認
外部送信: 会社が承認した環境だけ。顧客への自動送信はしない
相談先: 個人情報保護、法務、セキュリティの各窓口
限定試行: 3人、30件、2週間、資料検索だけ
成功指標: 中央値5分以下、根拠のない回答0件
判定者: 営業責任者と製品責任者
解決案を問題文へ戻す
悪い問題文は「社内問い合わせにAIチャットを導入する」です。すでに手段が決まっています。
次のように書き換えます。
営業担当が製品仕様を探すのに平均15分かかり、回答待ちも発生している。公開済みの承認資料から根拠付き回答へ5分以内に到達できるかを検証する。契約判断と顧客への自動送信は対象外とする。
数字は例です。自社の記録で置き換えてください。対象者、発生場面、現状、望む変化、非対象が一文で読めれば、AI以外の案も比較できます。
より細かな利用者、データ、権限、受入条件は小さなシステムの要件定義テンプレートへ移します。
現状値と成功指標を対にする
改善前の値がなければ、完成後に「便利になった気がする」以上の判断ができません。GOV.UKの便益測定ガイド(2026年8月17日確認)も、着手前のベースラインを確立し、案ごとの改善幅を比べるよう説明しています。
| 課題 | 現状値 | 成功指標 | 安全側の指標 |
|---|---|---|---|
| 検索に時間がかかる | 1件あたりの中央値 | 到達時間、自己解決率 | 誤答率、根拠なし回答率 |
| 転記が多い | 月間件数、作業時間 | 削減時間 | 欠落・重複件数 |
| 問い合わせが集中 | 件数、回答待ち時間 | 一次回答までの時間 | 人への引継ぎ率 |
平均だけでなく、失敗時の被害も見ます。速くなっても誤送信が増えるなら成功ではありません。
AI以外の案も同じ表へ置く
候補は少なくとも次の順で並べます。
- 業務手順や入力項目を減らす
- 既存の検索、FAQ、SaaS設定を直す
- ルールベースや通常のソフトウェアで自動化する
- AIを補助として使う
- 今回は作らない
AIは方式の一つです。NIST AI RMF 1.0のMANAGEでは、実行可能な非AI代替も検討し、意図した目的に合わない場合の停止を管理対象にしています。同枠組みは任意利用で、数値の合格基準は各組織が決めます。
方式の比較を詳しく行う場合は作る・買う・やめる判断表を使ってください。
GO・HOLD・STOPを先に決める
検証開始前に判定条件を書きます。
| 判定 | 条件の例 | 次の行動 |
|---|---|---|
| GO | 成功指標を満たし、安全指標も許容内 | 限定利用へ進む |
| HOLD | 効果はあるが、データ・権限・費用が未解決 | 問題だけを追加検証 |
| STOP | 最低改善幅に届かない、重大な誤り、責任者不在 | 機能停止、旧手順へ戻す |
STOPは失敗の烙印ではありません。期限と費用を使い切る前に、より良い案へ移るための判断です。GO後の工程は初めてのWebサービス開発ロードマップで確認できます。
よくある質問
成功指標は何個必要ですか
迷う場合は、改善・安全・運用可能性から、まず各1指標を選びます。これは編集部の出発例で、重要なのは数ではなく、誰がどの記録から判定するかです。
データがなくても始められますか
推測で目標値を置く前に、短期間だけ手作業で件数や時間を測ります。測れない課題は、AI導入後も改善を説明しにくいままです。
上司がAI利用を前提にしている場合は
AI案を外さず、非AI案と同じ条件で並べます。依頼を否定するのではなく、目的、期限、被害、停止条件を比較可能にします。
