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作る・買う・やめる:小さな業務ツールの判断表
業務改善、既存SaaS、内製、外注、AI、作らない案を、課題適合、データ、権限、費用、運用、責任者、出口、停止条件で比較する。
小さな業務ツールは、内製かSaaSかの二択ではありません。業務を変える、既存設定を直す、SaaSを買う、内製する、外注する、AIを補助に使うという案に加え、「今回は作らない」案まで同じ条件で比較します。
「DXやAIで何かできないか」という曖昧な依頼を、具体的な方式選びへ進める担当者向けです。比較する前に、対象業務と現在かかっている時間、処理件数、誤りの数を確かめます。製品の順位付けや見積相場、大規模な基幹システムの調達は扱いません。
まずこの判断表を埋める
○・△・×を感覚だけで付けず、判断の根拠と未確認事項も書き込みます。
| 判断軸 | 業務変更 | 既存SaaS | 内製 | 外注 | AI補助 | やめる |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 課題への適合 | ||||||
| 標準化できるか | ||||||
| データの取扱い | ||||||
| 権限・承認 | ||||||
| 既存システム連携 | ||||||
| 初期の人・費用 | ||||||
| 継続運用 | ||||||
| 社内責任者・副担当 | ||||||
| 外部事業者への依存・データ移行・終了 | ||||||
| 中止条件 |
各欄には「要確認:CSV書き出しに履歴が含まれるか」のように、次の調査行動を書きます。
必須条件と比較項目を分ける
安さや機能の多さで、未解決の安全条件を相殺しません。
| 種類 | 対象 | 判定規則 |
|---|---|---|
| 必須条件 | データ、権限・承認、社内責任者・副担当、終了時の移行、中止条件 | 未確認ならHOLD、許容できないならSTOP |
| 比較項目 | 課題への適合、標準化、連携、初期・継続コスト、外部依存 | 必須条件を満たした案だけを同じ期間と作業で比較 |
まず必須条件で候補を絞り、残った案を同じサンプル作業と評価期間で試します。最低限必要な改善幅と安全指標を満たす案がなければ、「今回は作らない」を選べます。該当しない条件は空欄にせず、理由とともに「対象外」と記録します。
部門内で決められる範囲と相談する境界
部門内では、現状の手順、件数、待ち時間、例外、非対象、成功指標を整理できます。承認済みの環境で架空・合成データを使い、候補の情報を集めるところまでなら、比較の準備として進められます。
次の条件に当てはまる案は、担当者だけでGOにしません。判断が記録されるまで、契約、本番データの利用、外部接続、公開をHOLDにします。
| 条件 | HOLDすること | 主な相談先 |
|---|---|---|
| 個人情報、契約上の機密、秘密情報を扱う | 本番データの取得、複製、入力 | 業務・データ責任者、セキュリティ、個人情報保護・法務 |
| 外部サービスへ送信する、APIや既存システムと連携する | 外部送信、接続、本番設定 | IT、セキュリティ、データ・契約責任者 |
| ログイン、認証、権限、管理者・サービスアカウントを設ける | アカウント発行、権限付与 | IT、セキュリティ、業務責任者 |
| 課金、決済、契約、自動更新が発生する | 購入、契約、支払情報の登録 | 業務責任者、調達・経理 |
| 外部送信、公開、削除、一括更新、自動承認など影響の大きい操作を行う | 自動実行、本番公開 | 業務責任者、IT、セキュリティ、出力承認者 |
| 法令、業界ルール、契約、本人同意の適用が不明 | 対象データを使う検証と実装 | 個人情報保護・法務、業務責任者 |
組織によって担当部署や承認経路は異なります。相談先は役割の例として使い、現行の社内規程と契約を確認します。この表は個別案件の適法性や安全性を保証するものではありません。
比較前に問題と基準値を固定する
GOV.UKの市販製品・サービス(COTS)選定ガイドは、製品や技術を決める前に、解く問題を定義して選択肢を試す順序を示しています。英国政府サービス向けの資料ですが、購入そのものを目的にしないための型として使えます。
対象業務:
利用者:
現在の手順:
月間件数:
1件あたりの時間:
誤り・手戻り:
止まった場合の影響:
今回の非対象:
GOV.UKの便益測定ガイドは、着手前の基準値を置き、案ごとの改善幅を比べるよう説明しています。手元にデータがなければ、本記事では短い測定期間を決め、まず手作業で記録します。
問題文の作り方は「AIで何か作って」を課題へ変える方法で確認できます。
10の判断軸
1. 課題への適合
機能数ではなく、対象者が元の課題を完了できるかを見ます。既製品の機能へ業務を無理に合わせるコストと、独自仕様を保つコストを両方書きます。
2. 標準化できるか
勤怠、申請、共有等の一般的な業務なら、既存選択肢を先に調べます。競争力と無関係な独自手順をソフトウェアで固定しないようにします。
3. データ
入力データ、正本、保存場所、保持、削除、個人情報、契約機密、国外処理、バックアップを確認します。AIを使う候補では生成AIへ入力してよいデータの判断も行います。
4. 権限と承認
閲覧、編集、承認、管理、サービスアカウントを分けられるかを確かめます。退職や異動の際にアクセス権を回収できるか、外部事業者側にどの管理者権限があるかも確認します。
5. 連携
APIがあるかだけでなく、認証、呼び出し回数制限、エラー、再試行、重複、バージョン変更、障害時の手動手順を見ます。
6. 初期コスト
ライセンスや開発費に加え、調査、設定、データ整備、移行、セキュリティ確認、教育、契約の時間を含めます。根拠のない相場は置きません。
7. 継続コスト
運用、問い合わせ、監視、更新、テスト、モデル評価、脆弱性対応、改善、契約更新を誰が担うかを書きます。導入後の費用や担当者が分からない案は、いったん保留です。
8. 社内責任者と副担当
SaaSやクラウドサービスを使う場合も、社内責任者を決めます。IPAのクラウドサービス安全利用の手引きも、管理担当者を決めることを確認項目にしています。外注の場合も、本記事では社内の業務責任者と契約窓口を置きます。
主担当が不在でも問い合わせ、停止、復旧、契約更新を続けられるよう、副担当と引継ぎ責任者も決めます。
| 役割 | 主に確認・決定すること |
|---|---|
| 業務責任者 | 課題、成功指標、現場運用 |
| 副担当 | 主担当不在時の連絡、停止、復旧 |
| IT・技術責任者 | 連携、障害時の手順、切り戻し |
| セキュリティ責任者 | 認証、権限、ログ、外部接続 |
| 個人情報保護・法務責任者 | データ、契約、適用規則、必要な承認 |
| 調達・契約責任者 | 費用、更新、外部事業者、終了条件 |
| 保守・引継ぎ責任者 | 文書、権限、契約、データ出口の保守と受渡し |
| 出力承認者 | 外部送信、公開、重要な自動処理 |
| 最終決定者 | GO、HOLD、STOP |
一人が複数の役割を担う場合も、誰が何を確認したかを判断記録へ残します。副担当を置けない案は、そのリスクと代替連絡先を記録し、本番導入の可否を最終決定者が判断します。
9. 外部事業者への依存と出口
同じIPA手引きは、利用終了時のデータを確保することも確認項目にしています。
- 全データを書き出しできるか
- 添付、履歴、権限、メタデータを含むか
- 形式を別システムへ取り込めるか
- アカウント終了後にデータへアクセスできるか
- 提供事業者側の削除条件は何か
- ドメイン、鍵、ソースコード、文書は誰が持つか
書き出しボタンがあるだけでは、移行できるとは判定しません。サンプルデータを書き出し、別の環境へ読み戻せるところまで試します。
10. 中止条件
期限や費用の上限、最低限必要な改善幅、許容できないエラー、責任者不在、移行できない場合など、打ち切る条件を開始前に書きます。
NIST AI RMF 1.0は、AI案と実行可能な非AI代替を比較し、目的と目標を満たすか、実利用の性能・結果が想定用途に合うかを管理対象にしています。任意枠組みで、停止値は組織が決めます。
候補を小さく試す
デジタル庁のDS-100は政府情報システム向けに複数方式を検討する考え方を示しています。小規模な民間ツールでは、全調達工程を持ち込まず、次のように軽量化します。
- 最大の未確認事項を一つ選ぶ
- 本番データを無条件で使わない
- 期限と費用上限を決める
- 同じサンプル作業を各候補で試す
- 成功指標と安全指標を測る
- 採用、保留、中止を記録する
本記事でいう概念実証(PoC)は、作れるかどうかだけでなく、その条件で続ける価値があるかを確かめる小さな検証です。
判断記録
決定日:
解く課題:
比較した案:
選んだ案:
選ばなかった理由:
根拠:
未確認事項:
業務責任者:
副担当・代替連絡先:
技術確認:
セキュリティ確認:
個人情報保護・法務確認:
調達・契約確認:
保守・引継ぎ責任者:
引継ぎ資料・保管先:
引継ぎ完了条件:
出力承認者:
最終決定者:
費用項目:
データ・権限:
終了時の移行:
中止条件:
再確認日:
判断記録の記入例
次の数値は架空の例で、費用や改善幅の目安ではありません。
| 候補 | 必須条件 | 同じサンプルでの比較 | 判定 |
|---|---|---|---|
| 現行SaaSの設定変更 | すべて確認済み | 2週間で転記時間が中央値8分から5分、誤り増加なし | GO |
| 別SaaS | 履歴を含む書き出し方法が未確認 | 月額費用は低いが移行テスト未実施 | HOLD |
| 内製 | 主担当・副担当・引継ぎ手順が未決定 | 初期工数は見積済み | HOLD |
| 今回は作らない | データ・権限上の追加条件なし | 中央値8分の現行手順が残る | 比較対象として維持 |
この例では、費用が低くても必須条件が未確認の案は採用しません。現行設定の改善幅が最低条件に届かなければ、GOを取り消して別案か中止へ戻します。
要件へ進む場合は小さなシステムの要件定義テンプレートを使います。既存システムを引き継いでから方式を見直す場合は社内システム棚卸しチェックリストを先に行ってください。
よくある質問
SaaSは内製より安いですか
案件ごとに変わります。初期費用だけでなく、設定、連携、運用、契約変更、データ移行、終了までを同じ期間・範囲で比較します。
AIを使わないと時代遅れですか
目的を満たせる最小の方式から比べます。通常の検索や決まった規則で安定して解けるなら、それも有力な案です。AIを使うこと自体は成果ではありません。最初の案に飛びつかず、やめる選択肢まで同じ表に置くと、判断の理由を次の担当者にも残せます。
